元模型雑誌編集長が証言「オタキングは模型の達人です」第二話(完)





廃刊になった模型雑誌A(仮名)の最終号に掲載されたバンダイ・メカコレクションシリーズの小型ビートルの見事な模型。
元編集長の証言によりその制作がオタキングとわかってメイド喫茶xyzの客達はうろたえた。
常連客の一人がこう言った。
「その模型のカスタマーレビューを読んだでござる!『他のメカコレに比してデカールが少ないので作業量は大幅に少なく、ただ組んでデカール貼るだけなら20分ちょいで完成します。』と書いてあったでござる!そんな簡単な模型を完成させた程度で岡田殿を模型の達人と認めるわけにはいかないでござるよ!」
だがこの意見がただの負け惜しみなのはすぐにわかった。
模型は小さいほど組み立てが難しくなる。そしてメカコレシリーズはすごく小さい。
全長20センチの2つのパーツを肉眼で見ながら手で貼り合わせるのと、全長0.1ミリの2つのパーツを顕微鏡で見ながらピンセットで貼り合わせるのではどちらが難しいか子供でもわかる。その常連客もすぐに自分の意見の間違いに気付いたらしく真っ赤になって黙り込んだ。
元編集長は話を続けた。
「あたしはね、技術的なことだけで岡田さんを模型オタクの王様と認めたんじゃないのよ。みんなもオタキングがベンツで交通事故にあってから指先の繊細な感覚を失い模型製作から引退したのは知ってるわよね?」
みんな無言で頷いた。そう言えばそうだった。事故の後もオタキングは名人級の模型製作の腕前を誇っていたが事故前に比べると、模型の組み立て時に0.01ミリの感覚のズレが生じるようになったそうだ。それは我々一般人にはわからない程度の微細なズレだがオタキングほどの名人級の腕前を持つ人間にとっては大きなズレであり、そのままプロモデラーを続けるのは模型おたくの王様モタキングとしてのプライドが許さなかったのだろう。
「でもね、オタキングは模型雑誌Aの廃刊危機の噂を聞いて、彼の模型を掲載することで一発逆転を狙おうと言ってくれたのよ。ふふ、夢みたいな話よね。だって一度は模型製作からの引退を決意したオタキングの復活作が見れるとなれば雑誌の売上げアップは間違いなしだもの」
みんな黙って聞いていた。そして話は佳境に入った。
「でもオタキングの腕は事故の後遺症で現役時代のようには動かない。それで彼は去年から大学の仕事や仙台で予定されていた講演のお仕事を休んでリハビリに励むようになったの!でもそのリハビリは失敗だった!頑張りすぎてリハビリマシンが暴走したのよ!その結果オタキングは足の指と肋骨を骨折してしまったの!」
「えっ!」店内にいた全員が驚きの声を上げた!
「じ、じゃあ去年のオタキングの骨折騒動は・・・」
「そうよ。模型雑誌Aのピンチを救うためだったのよ!」と元編集長。
客達の間からすすり泣きの声が漏れ始めた。
「わ、吾輩たちはそんなことも知らずにオタキングの骨折を仮病呼ばわりしてしまったでござる!」
泣き出した客の肩に優しく手を置いて元編集長は語った。
「オタキングはね、そんな大怪我をしてまで雑誌のために小型モービルを完成させてくれたのよ。たしかにこの小型モービルはそんなに難しい模型じゃないわ。作業量も大幅に少なく、組み立てだけなら20分で完成よ。でも大怪我をしたオタキングは苦しみに耐えながら半年掛かりでこの小さな模型を完成させてくれたの!この小型ビートルにはオタキングの義理と人情が詰まっているのよ!この情熱こそオタクの王様オタキングの称号に相応しいわ!」
いつしか客たちのすすり泣きは号泣に変わっていた。オタキングの模型製作に掛ける情熱に感動していた。
やがて客の一人がパン!と手を叩いて「オタキング!」と叫んだ。
他の客もパン!パン!と手を叩き「模型の達人オタキング!」と叫んだ!
次々と他の客も続いた。
パン!パン!パン!パン!
「オタキング!オタキング!」手拍子に合わせて皆が声を揃えて叫ぶ!
パン!パン!パン!パン!
「オタキング!オタキング!模型の達人オタキング!」
終わることなく、何度も何度も手拍子と掛け声は繰り返される。
店長とメイドさんも掛け声に加わった。もちろん元編集長も!
手拍子と掛け声に合わせて店内で行進が始まった!
「オタキング!オタキング!模型の達人オタキング!」パン!パン!パン!パン!
そしてその勢いのまま全員外に出た!

アキバの街にこだまする手拍子と「模型の達人オタキング」の掛け声!
アキバの通りを歩いていた通行人も続々と列に加わり手拍子と掛け声はどんどん大きくなっていった。
この日からオタキングの模型の腕前を疑う者は誰もいなくなったという。
(完)